すりごまは、袋入りのものを買えば済みます。すぐ使えて、値段も手頃で、失敗もありません。それでも、ゴマをすった瞬間にふわっと立ちのぼる、あの香りだけは袋入りでは味わえない——そう思っている方は、きっと私だけではないはずです。
近所にお気に入りのキッチン用品店があります。特に買うものがなくても、つい覗いてしまうお店です。先日もぶらぶらと棚を眺めていたら、隅のほうに面白そうなものを見つけました。手回し式のゴマすり器「スリッキーN」です。
こういうとき、たいていは「便利そうだけど、たぶん使わないな」と棚に戻します。ところが値段を見ると、ワンコインでお釣りが来る手軽さ。しかも、家にすっていない黒ゴマが残っていたことを、ちょうど思い出してしまいました。買わない理由がひとつも見つからず、そのままレジへ向かった次第です。

スリッキーNとは:手で回してゴマをすり出す道具
スリッキーNは、電気もモーターも使わない、完全手動のゴマすり器です。透明な本体にいりごまを入れ、上の手持ち(取っ手)をくるくると右に回すと、下の穴からすりごまが出てくる、という仕組みです。
箱には「特許こますり器」とあり、パッケージには特許番号らしきものまで刷られています。製造元は名古屋の角大産業。「MADE IN JAPAN」の文字も誇らしげです。いつ頃から売られている道具なのかは分かりませんが、デザインを見る限り、かなり長く作り続けられてきたのだろうと想像しています。
大きさは、片手にすっぽり収まるくらい。上が細く下が広がった、ペンギンのような愛嬌のあるかたちをしています。本体が透明なので、中のゴマの残量がひと目で分かるのも地味に便利なところです。

正直に言えば、私がまず惹かれたのは道具そのものよりもパッケージの箱でした。淡い水色の背景に、ゴマを注ぐ手のイラスト。赤と黄色の配色。少し丸っこい書体のロゴ。今どきのキッチン用品の洗練されたデザインとはまったく違う、なんとも言えないレトロな空気が漂っています。箱を眺めているだけで、ちょっと得をした気分になる——そういう買い物でした。
箱の裏に書かれた「スリッキーの特長」も味わい深いので、そのままご紹介します。
- ごまの栄養価を完全に活かす
- お子さまにも、たやすく使える
- ごまをきれいにカッチングする
- お総菜に、めん類、味噌汁に
- 文化的な食卓のマスコット
最後の「文化的な食卓のマスコット」。この一文だけで、もう好きになってしまいました。

側面に並んだ「御使用上の注意」も、読んでいて楽しい文章です。熱いゴマを入れると変形することがあるので冷ましてから入れること、良いゴマほど軽くきれいにすれること、回りにくくなったときは臼の部分に小石などが入った合図なので逆に回して取り出すこと。ひとつひとつが、実際に使った人の声から生まれたのだろうな、と伝わってくる書きぶりです。説明書きに人の気配があるって、いいものです。
まずは分解して洗ってみました
新しい道具が来たら、まずは洗います。箱の注意書きには、すべてねじで組み立ててあるので左へ回せば分解できる、と書かれていました。そのとおり左に回していくと、面白いようにバラバラになります。
分解すると、部品はこんな構成です。
- 底フタ(ここからゴマを入れます)
- 透明の本体
- 下ウス
- 上ウス(渦巻き状の刃がついた赤いパーツ)
- 手持ち(回す取っ手)
- 調節ねじ
- シメリ止めキャップ

洗いながら気づいたのは、胡椒をガリガリ砕くペッパーミルとよく似たメカニズムだということ。上ウスと下ウスの間にゴマを挟み、回転させて砕く。原理はとてもシンプルで、だからこそ壊れる要素が少ないのだと思います。理系の性分で、こういう「見ればわかる構造」にはつい嬉しくなってしまいます。
洗い方の注意も箱に書いてありました。みがき砂は使わず、中性洗剤で洗うこと。プラスチック製なので、傷をつけると回転が悪くなるのだと思います。洗ったあとはしっかり乾かしてから組み立てました。ゴマを扱う道具ですから、水気は大敵です。
実際に黒ゴマをすってみました
乾かした本体に、家にあった黒いりゴマを入れます。底フタを外して入れる方式なので、逆さまにして詰める形になります。
① くるくる回すのが、とにかく楽しい
手持ちを右に回すと、シャリシャリという小気味よい音とともに、下の穴からすりごまが出てきます。この「自分の手で回す」という行為が、思っていた何倍も楽しいのです。ボタンを押せば終わる家電にはない、手ごたえのある楽しさがあります。お子さんが喜んで手伝ってくれそうな道具でもあります。

②「する」というより「切る」感覚
すり鉢とすりこぎで潰していく感じを想像していたのですが、出てきたものを見て納得しました。これは「する」というより「切る」に近い。しっとりした粉状になるのではなく、粒が割られ、刻まれた状態で出てきます。

面白いことに、この感覚は箱にもちゃんと書かれていました。特長の三つ目、「ごまをきれいにカッチングする」。カッチング、つまり切る、です。カッティングではないところが趣があります。作り手も同じことを考えていたのだと分かって、なんだか嬉しくなりました。
③ 何より、香りが違います
そして本題です。穴からゴマが出てくるその瞬間に、ふわっといい香りが立ちます。手を動かしている自分のすぐ目の前で香りが生まれるので、袋を開けたときとは届き方がまるで違います。袋入りのすりごまも決して悪くはないのですが、すりたての香りはやはり別格でした。
すりごまは、すった瞬間から少しずつ香りが飛んでいくと言われます。だとすれば、食べる直前にすったものがいちばん美味しいのは道理です。わざわざ道具を買った理由がまさにここにあるので、この一点だけで十分に満足しています。
使い方はとてもシンプル
箱に書かれている使い方は、次のとおりです。
- 底フタを外して、いりごまを入れる
- シメリ止めキャップを外す
- 手持ちを右(→)に回すと、すりごまが出てくる
- すり終わったら、手持ちを逆(左)に2〜3回まわす
最後の「逆に2〜3回」は、ウスの部分にすりごまを残さないための手順だそうです。知らなければ絶対にやらない動作なので、説明書きは読んでみるものだと思いました。
そしていま気になっているのが、頭の調節ねじの締め具合で、すり加減が変えられるという点です。締めれば細かく、緩めれば粗く、ということのようです。まだ試していないので、これはこれからの楽しみに取っておきます。
使う前に知っておきたいこと
正直なところも書いておきます。
- 一度に出る量は多くありません。 たっぷり必要なときは、素直に袋入りを買うほうが早いです。
- 湿ったゴマは苦手です。 箱にも、湿ったゴマは乾かしてから使うようにと書かれています。回りにくくなったときは、臼の部分に小石などの雑物が入ったサインだそうです。
- 手回しなので、作業は必要です。 私はこれを「楽しい時間」と感じましたが、効率を最優先したい方には向かないかもしれません。
- 洗った場合は、よく乾かすこと。 水気を残したまましまうと、次に使うときに回りが悪くなりそうです。
こんな人におすすめ/おすすめしない人
おすすめしたい人
- すりたてのゴマの香りを楽しみたい方
- 電気を使わない、シンプルな台所道具が好きな方
- レトロなデザインに弱い方
- お子さんと一緒に料理を楽しみたい方
おすすめしない人
- 一度にたくさんのすりごまを使う方
- 洗って乾かす手間をかけたくない方
まとめ
ワンコインでお釣りが来る値段で、食卓の香りがひとつ増えました。手を動かした分だけ、香りが返ってくる。それがこの道具のいちばんの魅力だと思います。
まだ使い始めたばかりなので、調節ねじの締め加減を変えて粗さを試したり、ほうれん草のおひたしや味噌汁にかけたりしながら、しばらく付き合ってみるつもりです。使い込んで分かったことがあれば、また追記します。
そして最後にもう一度だけ言わせてください。あのパッケージの箱、やっぱり捨てられません。

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